故人に税金の滞納があった場合に相続放棄できるか?
相続の場面では、遺品整理の最中に故人の税金の滞納が発覚することがよくあります。例えば、住民税の督促状、固定資産税の未納通知、国民健康保険料、自動車税、所得税など、さまざまな税目の滞納書類が残されていることがあります。こうした書類を目にすると、相続人は「この滞納税を自分が支払う必要があるのか」「相続放棄をすれば支払わなくて良いのか」という疑問を持つことになります。
ここでは、故人が税金を滞納していた場合に相続放棄が可能なのか、法律と実務の観点から詳しく説明します。
税金の滞納があっても相続放棄は可能か
結論として、税金の滞納があっても相続放棄は可能です。
相続放棄は民法で定められた制度で、相続人が故人の財産も負債も一切承継しないという意思表示を家庭裁判所で行うものです。
そのため、故人が残していた借金はもちろん、滞納していた税金もすべて相続の対象になります。そして相続放棄をすれば、それらを一切引き継ぎません。
相続放棄を行った相続人に対して、税務署や自治体が滞納税の支払いを求めることは法律上できません。
つまり、相続放棄をすれば税金の負担からも完全に解放されます。
なぜ税金でも相続放棄ができるのか
相続における基本ルールは「包括承継」です。
これは、故人が持つプラスの財産(預金・不動産など)とマイナスの財産(借金・税金滞納)をすべてまとめて引き継ぐという仕組みです。
故人の税金の滞納も、借金と同じ「債務」として扱われます。
したがって、相続放棄が認められれば、マイナスの財産を含めてすべて承継しないことになります。
税金だけは相続放棄できないと誤解する人もいますが、そのような法律は存在しません。
税金も借金も同じく相続の対象であり、相続放棄によってすべて引き継がずに済みます。
税金の滞納は回収力が強い
故人の滞納税が発覚した際に相続人が不安になるのは、税金の回収力の強さに理由があります。
税金には次のような特徴があります。
- 差押えが迅速
- 預金や給料、不動産などが容易に差押え対象になる
- 延滞金が高い
- 時効が一般の債務より長い場合がある
このように、税金は最も強制力のある債務と言えます。そのため、滞納税のある相続では慎重な判断が必要です。
しかし重要なのは、相続放棄をすれば滞納税の支払い義務は完全に消えるという点です。
相続放棄した相続人の財産が差し押さえられることは絶対にありません。
相続放棄すれば税金の支払い義務は完全に消える
相続放棄が受理されると、相続人は法律上「最初から相続人ではなかった」扱いになります。
そのため、
- 故人の住民税の滞納
- 固定資産税の滞納
- 国民健康保険料の滞納
- 所得税の未納
これらはすべて相続人には請求されません。
万が一、税務署や自治体から通知が届いた場合でも、相続放棄申述受理通知書を提示すれば請求は止まります。
相続放棄の期限と注意点
相続放棄は、相続を知った日から三か月以内に手続きする必要があります。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。
三か月以内に判断が難しい場合は、家庭裁判所に申請すれば熟慮期間を延長できます。
また、相続放棄を検討している間に注意すべき重要なポイントがあります。
それは、故人の財産を処分してはいけないという点です。
以下の行為は「単純承認」とみなされ、相続放棄ができなくなります。
- 預金の引き出し
- 家財や遺品の売却
- 車の処分
- 不動産のリフォーム
税金滞納のある相続では、相続放棄を確実に行うためにも、財産に手を付けないことが非常に重要です。
相続放棄前の遺品整理は特に注意
相続放棄をする可能性がある場合、遺品整理には細心の注意が必要です。
価値のある家財を処分する、売却するなどの行為は単純承認と扱われる可能性があるためです。
ただし、次のような「管理行為」は認められています。
- 腐敗した食品の処分
- 防犯のための施錠
- 漏水や火災の危険を防ぐための対処
- 臭い防止のための最低限の掃除
管理目的を超えた遺品整理は相続放棄を妨げる原因になるため、専門家に相談しながら慎重に進めることが重要です。
相続放棄後の家や財産の扱い
相続放棄をすると、故人の不動産や家財を含めて一切承継しません。
当然、固定資産税の支払い義務も発生しません。
ただし、次順位の相続人が決まるまでの間、最小限の管理義務だけが残ることがあります。
これは「相続財産管理人」が選任されるまでの暫定的なものです。
賃貸住宅に住んでいた場合も同様で、相続放棄した相続人が賃貸契約の義務を負うことはありません。
相続放棄後に督促状が届く場合
相続放棄後にも税務署や市役所から通知が届く場合がありますが、多くは情報連携の遅れによるものです。
相続放棄を証明する書類を見せれば停止手続きが行われます。
まとめ
故人に税金の滞納があったとしても、相続放棄をすれば相続人がその税金を支払う必要はありません。
税金は回収力が強いため、負債が多い相続では相続放棄の判断が特に重要となります。
相続放棄には期限があり、財産を処分してしまうと手続きができなくなるため、慎重に行う必要があります。
不安がある場合は、相続専門の司法書士や弁護士に相談することで、より安全に手続きを進めることができます。



