故人の車を名義変更しないで乗っているとどうなるのか
家族が亡くなった後、故人の車をそのまま利用してしまうケースは少なくありません。
「葬儀のために仕方なく使った」「名義変更が面倒だからそのまま使い続けている」
という理由はよくあります。
しかし、故人名義の車を名義変更しないまま乗ることは、法律的にも保険上でも非常に危険 です。
最悪の場合、事故が起きた際に莫大な賠償責任を家族が負うことになります。
以下では、そのリスクを体系的に詳しく解説します。
法律上、故人の車は「相続財産」
まず大前提として、故人名義の車はすべて 相続財産 です。
遺品ではなく「相続財産」である以上、処分・売却・使用をするには相続手続きが必要です。
つまり、
- 名義変更をしないまま乗る
- 家族が勝手に売却する
- 保険をそのまま使う
といった行為は 本来許されません。
これは 道路運送車両法・相続法・自動車保険の契約法 に関わる問題です。
名義変更しないで乗ると何が問題なのか
故人名義のまま乗ると、次のリスクがあります。
① 自動車保険(任意保険)が無効になる可能性が極めて高い
任意保険は「契約車両の所有者・使用者を正しく申告する」ことが加入条件ですが、
故人名義のまま乗ると、
- 契約と実態が異なる
- 虚偽申告とみなされる
- 事故を起こしても保険金が支払われない
という重大な事態になります。
特に死亡事故・人身事故を起こした場合は破滅的な損害賠償責任 を負います。
② 自賠責保険の“記載事項違反”で適用外になる恐れ
自賠責保険も、契約者・車両情報が正しく登録されている必要があります。
名義変更せずに乗ると、
- 契約内容と実態が異なる
- 車検切れや保険切れに気づかない
- 適用外になる可能性がある
自賠責が使えない人身事故は最悪で、
被害者への補償も家族が全額負担 になります。
③ 道路運送車両法違反になる可能性
道路運送車両法では、
車両の使用者は事実と異なる状態で乗ってはならない
とされています。
死後に乗ると、
- 名義人が死亡している以上、所有者不在
- 使用者情報が虚偽
- 道路運送車両法違反
に該当する場合があります。
行政処分や罰金の対象になる可能性もあります。
④ 故人名義のままでは車検を更新できない
多くの人が見落としますが、
故人名義の車は車検が通らなくなります。
理由:
- 自賠責保険に加入できない(契約者死亡時の扱い)
- 車検証の名義が故人のままだと申請できない
車検が切れた状態で公道を走ると、
- 罰金
- 免許停止
- 道路交通法違反
- 自賠責保険未加入(重大違法)
に該当します。
⑤ 自動車税が故人名義のまま課税され続ける
名義変更されない限り、翌年以降も自動車税通知は故人宛に届きます。
遺族が支払わないと滞納扱いになり、
延滞金が発生する場合もあります。
⑥ 売却できない・下取りできない・廃車できない
故人名義では
- 買取業者
- ディーラー
- 廃車業者
は絶対に手続きを受理しません。
売る・廃車にするには
- 相続書類を揃える
- 相続名義変更をする
- その後に売却または廃車
という流れが必要です。
名義変更しないと価値があっても処分できません。
⑦ 事故を起こした場合の責任が家族に直接ふりかかる
これは最も危険な点です。
もし故人名義の車で事故を起こすと、
- 任意保険 → 適用拒否
- 自賠責 → 適用外の可能性
- 相手への損害賠償 → 全額自己負担
- 重度の人身事故は数千万円〜数億円の賠償
- 刑事責任も発生
- 家族の財産も差し押さえの対象
最悪の場合、一家が破産するレベルの責任を負うことになります。
「少しだけ使う」「葬儀準備のため」は許されるか?
Q:葬儀のために荷物を運ぶなど、短時間でもダメ?
→ ダメです。法律では利用期間の長短は関係ありません。
Q:駐車場から移動するだけなら?
→ 公道に出る時点でアウトです。
Q:家族なら大丈夫では?
→ 関係ありません。
故人名義の車は「所有者不在の車両」扱いになります。
事故が起きた場合の「最悪ケース」を具体的に説明します
これは実際に起きた事例を基にしたケースです。
ケース:故人名義の車で家族が事故を起こした場合
- 任意保険 → 名義不一致により支払い拒否
- 自賠責 → 契約不備で使えず
- 被害者の治療費 → 500万円
- 休業損害 → 250万円
- 慰謝料 → 400万円
- 車の修理代 → 200万円
合計 約1,350万円 を家族が支払うことになります。
重大事故なら金額は 1億円以上 になることも珍しくありません。
名義変更しないことによる「相続トラブル」も重大
故人の車を誰かが勝手に乗り続けると、他の相続人から
- 勝手に財産を使った
- 無断使用による損害賠償
- 遺言違反
- 相続放棄への影響
などの問題が生じます。
とくに兄弟間で不満が起きるケースが非常に多く、
遺産トラブルとして発展することがあります。
故人名義の車はいつまでに名義変更すべき?
名義変更の期限は法律上明確にはありませんが、「30日以内」が実務上の推奨です。なぜなら、
- 自動車税課税のタイミング(4月1日)
- 車検の期限
- 保険の切替期限
- 相続手続きの一環
- 事故リスクの回避
- 売却・廃車の予定
など、多くの理由から 早ければ早いほど良い のです。
故人の車を安全に利用するためには?
故人の車を乗り続けたい場合は、以下の流れが必要です。
STEP1:相続人を確定する(戸籍収集)
STEP2:相続人全員で遺産分割協議を行う (誰が車を相続するか決定)
STEP3:遺産分割協議書を作成(実印押印)
STEP4:陸運局で“相続による名義変更”を行う
STEP5:任意保険の名義変更(重要)
STEP6:車庫証明の変更(必要な場合)
この手続きを行って初めて、合法的・安全に車を使用することができます。
まとめ:名義変更しないまま乗るのは“絶対にしてはいけない行為”
最後に、重要ポイントをまとめます。
● 故人名義の車を名義変更しないまま乗ると?
- 任意保険が無効になる
- 自賠責も使えなくなる可能性
- 道路運送車両法違反
- 事故時に数百万〜数億円の賠償責任
- 車検が通らない
- 売却・廃車もできない
- 相続トラブルの原因になる
● 家族だから許される、短時間だからOK という考えは通用しない
● 故人の車は必ず相続名義に変更する必要がある
● 名義変更しないで乗るのは「重大な違法リスク」であり、絶対に避けるべき
故人の車をそのまま使用するのは、一見些細なことのように見えて、実は家族の生活を根底から揺るがすほどの大きなリスクを抱えています。
正しい手続きを行い、安全に車を管理・処分することが極めて重要です。





