骨董品・美術品の相続価格はどうやって決めるか?
相続において、不動産や預貯金と同じように 骨董品・美術品も相続財産 として評価し、相続税申告に反映させる必要があります。
しかし、骨董品や美術品は株式や預金のように価格が明確ではなく、
- 市場価格が変動する
- 評価基準が分かりにくい
- 真贋で価値が大きく変わる
- 古い鑑定書が頼りにならない
- 専門家による評価が必須
といった特徴があり、適切な相続税評価を行うには専門的な知識と実務経験が求められます。
ここでは、国税庁の評価基準、鑑定の方法、相続税申告に耐えられる価格設定、注意すべきリスクなどを、実務レベルで具体的に説明します。
相続税における美術品・骨董品の評価は「時価」が原則
まず大前提として、国税庁は美術品の評価について次のように示しています。
相続時点の「時価」によって評価すること
つまり、
相続開始時点(被相続人の死亡時)の市場価格
が評価額になります。
ポイントは「必ず鑑定が必要」というわけではなく、
客観的に時価が合理的に算定できる方法であればよい
という点です。
しかし、ほとんどの骨董品・美術品は専門性が高く、一般の相続人が値付けできるものではありません。そのため、多くの場合、鑑定書や専門家の評価書が必須 になります。
相続税評価で認められる「時価」の算定方法
国税庁は、美術品の評価方法として次の基準を挙げています。
鑑定人(専門家)による鑑定評価書
実務上最も多く採用されている方法です。
鑑定書を発行できる専門家の例:
- 美術商(専門店)
- 大手オークション会社
- 公立美術館の学芸員
- 美術史・考古学の大学教授
- 作家系財団(作品の真贋鑑定を行っている団体)
これらの鑑定書は、相続税申告においてもっとも信頼性が高く、
税務署でも基本的に受け入れられる評価 となります。
オークションの落札価格(実勢価格)
次に有力なのが、過去のオークション落札価格 です。
- 過去1~3年以内の落札価格
- 国内外のオークションを含めて比較
- 同作家・同ジャンル・同サイズの類作品の価格を参考にする
オークション価格は「市場で実際に売れた価格」であり、
時価をもっとも的確に反映している として、国税でも評価されやすい傾向があります。
専門美術商が提示する買取価格・販売価格
専門美術商から
- 買取見積書
- 販売見積書
- 査定書
を取得し、相続税評価として採用することも可能です。
実務では、
- 複数の美術商に見積りを依頼し、中央値を採用
- あるいは老舗専門店の見積り書をそのまま使用
などの方法が使われています。
書籍・カタログレゾネ(作品集)を参考にする
作家ごとに出版されている「カタログレゾネ(作品全集)」や専門書で、類似作品の価格や評価を確認し、参考とする方法です。
ただしこれは補助的手段であり、
これだけでは相続税申告書に添付する資料として不十分
であるため、鑑定書と併用します。
相続税評価に使える鑑定書とはどのようなものか
相続税申告では、鑑定書の信頼性が重視されます。
実務上、次のような鑑定書が評価されます。
発行者が明確で、専門性が高い鑑定書
- 鑑定人(または鑑定機関)の氏名・経歴・連絡先が明記
- 鑑定人が美術品を専門としている
- 過去の鑑定履歴が多数ある
特に、以下の鑑定書は信頼度が高いです。
- 大手オークション会社(SBI・マレット・ショーンアートなど)
- 公立美術館学芸員
- 老舗・著名画廊(加島美術、東京美術倶楽部など)
- 作家公式鑑定機関(棟方志功記念館、東山魁夷財団など)
鑑定の対象作品が特定できること
鑑定書には以下が必須です。
- 作品の写真
- サイズ
- 技法
- 材質
- 署名・落款
- 保存状態
これらが明確にされていない鑑定書は税務で否認される場合があります。
鑑定時点が相続開始日に近いこと
鑑定価格には実質的な有効期限が存在します。
- 1年以内が望ましい
- 長くても 3年以内
- 5年以上前の鑑定書はほぼ使えない
古い鑑定価格は市場価格と乖離するため、税務署に否認される可能性があります。
相続税評価額は「売却価格」ではなく「時価」である
相続では、
「将来売ったらいくらになるか」ではなく
「相続発生時点での市場価値(時価)」
を評価します。
注意点:
- 売却価格と必ずしも一致しない
- 販売価格(店頭価格)は高すぎるため評価額として不適
- 買取価格は安すぎるため参考意見にとどまる
そのため、専門鑑定人による「評価書」が最も実務的です。
相続税評価でよくあるトラブルと注意点
古い鑑定書を使ってしまう
30年前の鑑定書が見つかったとしても相続評価には使えません。
理由:
- 当時の鑑定人がすでに亡くなっている
- 市場相場が変わっている
- 価格の妥当性がない
必ず最新の鑑定を取得する必要があります。
贋作・所定鑑定機関の未鑑定
真作かどうか判断できない場合、
税務署は評価額を認めません。
例:
棟方志功 → 棟方版画鑑定委員会
横山大観 → 大観記念館
東山魁夷 → 財団による鑑定
これらの「公的権威」が鑑定していない場合、
相続税評価として不十分とされることがあります。
家庭で勝手に価格をつける
よくある誤解:
- 「父が生前に100万円で買ったから100万円で評価」
- 「祖父の鑑定書に50万円と書かれているからそれで良い」
→ 相続税では完全に認められません。
複数品目のセット価格で評価する
茶道具・掛軸・書画などで、セットで鑑定書がある場合でも、
相続税評価は 1点ずつ 必要です。
相続税評価のための正しい実務手順
以下の手順に沿うと、税務署にも認められやすい評価が可能になります。
まず全品を仕分けし、価値のある可能性がある作品を特定
- 箱書きのある茶道具
- 作者名が読める書画
- サイン入りの油画
- 刀剣・甲冑
- 掛軸
- 古銭・蒔絵・陶磁器
遺品整理の段階での仕分けが極めて重要です。
専門家に「真贋鑑定」を依頼
真作でなければ価格評価ができないため、まずは真贋の確認を行います。
価値があると判断されたものについて、「価格鑑定」「評価書」を取得
評価書には以下が記載されます。
- 鑑定人・鑑定機関名
- 鑑定日
- 作品の詳細
- 鑑定価格(時価)
- 評価の根拠
その評価書やオークションデータをもとに、相続税評価額を確定
税理士が最終判断したうえで、申告書に添付します。
必要に応じて追加資料を提出
税務署から問い合わせがある場合、
- 類似作品のオークション結果
- 作品の詳細写真
- 鑑定人の経歴
- 鑑定根拠
などを補足します。
まとめ:骨董品・美術品の相続税評価は“最新の専門鑑定”が必須
最後に重要ポイントをまとめます。
相続税評価は「時価」(=死亡時の市場価値)
評価方法の中心は以下の3つ
- 専門鑑定人による「鑑定評価書」
- オークション落札価格
- 美術商や画廊の査定書
鑑定書は古いものでは意味がない
1〜3年以内の鑑定書が望ましい。
真贋鑑定が最重要
贋作なら評価できず、相続財産から除外も可能。
家族の自己判断は不可
必ず専門家による評価書が必要。
遺品整理の段階で見落としが起きやすい
箱入り茶道具・掛軸・版画など価値が隠れていることが多い。
相続における骨董品・美術品の評価は、誤りが多く、税務否認されるリスクもあります。
そのため、信頼できる専門家による最新の鑑定書を取得することが最も重要です。



