自筆遺言書を開封してしまった場合の対応
遺品整理や片付けを行っていると、故人が残した 自筆証書遺言 が見つかることがあります。
多くの場合は封筒に入り、
- 「遺言書」
- 「遺言書在中」
- 「開封厳禁」
などと記載されていることがあり、発見した人は驚き、思わず開封してしまうことがあります。
しかし、自筆の遺言書(自筆証書遺言)は、家庭裁判所での「検認」が必要であり、勝手に開封してはいけないと法律で定められています。
では、誤って開封してしまった後はどうすればよいのか?
罪になるのか?
遺言書の効力はどうなるのか?
こうした疑問や不安に対し、本稿では 正しい行動手順と法的影響、トラブルを避けるためのポイントをわかりやすく説明します。
自筆証書遺言は「勝手に開封してはいけない」
民法第1004条には以下の規定があります。
自筆証書遺言が発見された場合、相続人は家庭裁判所に提出して検認を請求しなければならない。
封印のある遺言書を開封した者は、5万円以下の過料に処せられる。
ポイントは2つです。
自筆証書遺言は”必ず検認が必要”
家庭裁判所で形式や状態を確認し、改ざん防止のために「検認調書」を作成します。
勝手に開封すると「過料」の可能性がある
刑事罰ではなく「行政罰」ですが、5万円以下の過料が科される可能性があります。
ただし、知らずに開封した場合は、故意性がないため過料が科されないことがほとんどです。
うっかり開封してしまった場合でも「遺言の効力は消えない」
意外に誤解されがちですが、
遺言書の封を勝手に開けても、その遺言の効力は無効になりません。
遺言の効力に影響するのは以下の点です。
- 内容が民法の要件を満たしているか
- 日付・署名・印などがあるか
- 改ざんされていないか
つまり、封を開けただけでは遺言書は無効にならず、家庭裁判所の検認手続きを経れば正式に有効として扱われます。
「開けてしまった」後にまずやるべきこと
遺言書をそれ以上触らず、元の状態で保管する
- 破損しないように封筒・紙をそのまま保存
- 新たに書き込み、貼り付け、補修をしない
- 写真を撮って記録を残しておく(証拠保全のため有効)
無理に閉じ直したり、ホチキスで留めたりすると「改ざん」と見なされる恐れがあります。
速やかに「家庭裁判所」に検認を申し立てる
家庭裁判所への「検認申立て」が必要です。
申立書類は裁判所のホームページからダウンロードできます。
申立先
故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
提出書類
- 検認申立書
- 遺言書(開封済みでもOK)
- 被相続人の戸籍(死亡の記載があるもの)
- 相続人全員の戸籍
- 申立人の身分証
- 収入印紙・郵券(数千円程度)
必要書類が整えば、そのまま家庭裁判所に提出して検認日程の通知を待ちます。
「開封してしまった事実」を正直に記載する
申立書には
「誤って開封してしまいました」
と正直に記載してください。
家庭裁判所は「隠したり破棄したりしたのか」を特に重視します。
故意でなければ通常は問題視されません。
遺言書を開封してしまうとどんな問題が起きるか
5万円以下の過料の可能性
ただし “故意に” 開封した場合に限られ、
知らずに開封してしまった場合は科されないことが多いです。
相続人から疑いをかけられる可能性
封が開いていると、
- 「内容を改ざんしたのでは?」
- 「有利な部分を書き換えたのでは?」
- 「必要な部分だけ隠したのでは?」
といった疑念を持つ相続人が出ることがあります。
これが相続トラブルの重大な火種になるため、開封したことは必ず早めに全員に知らせることが重要です。
家庭裁判所での検認時に質問される
検認手続きの中で、裁判官から
- いつ見つけたのか
- どこで発見したのか
- なぜ開封したのか
などを確認されます。
正直に事実を伝えれば問題ありません。嘘をつくと不利です。
「開封=改ざん」と見なされないための注意点
遺言書の効力は維持されますが、改ざん疑惑を避けるために以下の点に注意してください。
セロテープ・のりで封を貼り直さない
これは「改ざんの可能性がある」と判断されやすい行為です。
書類をまとめようとホチキスを打たない
小さな穴でも、裁判所は「どの時点で刺されたものか」を問題にします。
遺言書に何も書き込まない
メモや日付を書き込むこともNGです。
複製・写しを作るときは丁寧に
スキャンしただけで「改ざん」とは見なされませんが、原本を傷つけないよう注意。
相続人へはどう伝えるべきか
開封してしまった場合は、
すぐに相続人全員へ事実を共有してください。
- 発見場所
- 発見日時
- 開封した理由(誤って開けてしまったなど)
- 現物の写真
これらを伝えることで「透明性」が保たれ、疑念をなくすことができます。
相続トラブルの多くは「隠された」という不信感から発生します。
事実を正直に伝え、家庭裁判所で検認を受けることを共有すれば問題ありません。
検認手続きの流れ
検認の実務は次のように進みます。
検認の申立て
必要書類を家庭裁判所へ提出。
相続人全員へ通知
裁判所が「検認期日」を全相続人に告知。
検認期日に裁判官が内容確認
- 遺言書の筆跡・日付・封の状態
- 開封の事実
- 保存状態
などを確認。
開封済みでも問題なく手続きは進みます。
検認調書の作成
この調書をもとに、銀行や不動産登記、財産名義変更が可能になります。
遺言書の内容をめぐる争いを避けるポイント
開封後は特に以下に注意するとトラブルを避けやすくなります。
- 家族へは逐一「見つかった書類」を共有する
- 遺言書のコピーを全員に提供
- 弁護士など専門家に第三者として入ってもらう
- 遺産分割は遺言に従って淡々と進める
遺言書の存在が確認できたら、遺産分割協議は原則として 遺言の内容が最優先です。
専門家に相談したほうがいいケース
以下のような場合は、法律専門家への相談を強くおすすめします。
- 他の相続人が「改ざんしたのでは?」と疑っている
- 複数の遺言書が見つかった
- 遺言内容が相続人の誰かに大きく偏っている
- 遺産の種類が多い、金額が大きい
- 家族関係が複雑
弁護士・司法書士・相続専門行政書士などがサポートできます。
まとめ
自筆の遺言書を誤って開封してしまった場合でも、慌てる必要はありません。
重要なのは、正しい法的手続きと透明性のある行動です。
やるべきことまとめ
- 遺言書にそれ以上触れず、破損させずに保管
- 家庭裁判所に「検認」を申し立てる
- 開封してしまった事実を正直に申告する
- 相続人全員に発見・開封の経緯を説明する
- 検認後は遺言の内容に従って手続きを進める
開封してしまったからといって遺言が無効になることはありません。
大切なのは、故人が残した最後の意思を尊重し、適切な法的手続きを踏むことです。


