故人のネットサービスの引継ぎ方法
各サービスごとの対応例(故人のデジタルアカウントをどう扱うか)
故人が残したデジタルアカウントは、利用していたサービスによって対応が異なります。ここでは代表的なサービスごとに、遺族がどのように手続きを行えばよいかを具体的に説明します。なお、必ずしも正確でない説明があるかもしれませんので、実際の手続きについては各サービスの提供社のサイトで確認して下さい。
Google(Gmail・Googleドライブ・YouTube など)
Googleアカウントには、メール(Gmail)、写真(Googleフォト)、文書(Googleドライブ)など、生活や仕事に関わる情報が多く保存されています。
Googleでは「非アクティブ アカウント マネージャー(Inactive Account Manager)」という機能があり、事前に設定しておくことで、一定期間ログインがない場合にデータを削除したり、指定した人物に引き継ぐことが可能です。
もしこの設定がされていないまま故人が亡くなった場合、遺族はGoogleに「アカウント所有者死亡に関する申請」を行うことができます。
申請には以下の書類が求められます。
- 故人の死亡証明書または死亡記載のある戸籍謄本
- 申請者の本人確認書類(運転免許証など)
- 相続人であることを示す書類(遺言書や遺産分割協議書など)
Googleは原則として、パスワードを第三者に開示することはありませんが、申請内容が認められれば、限定的にデータを提供することがあります。
Apple(iCloud・iTunes・App Store など)
Appleのアカウント(Apple ID)は、iPhoneやMacの利用だけでなく、iCloudやApp Storeの購入履歴、写真、メモ、連絡先など多くの情報を含みます。
2021年以降、Appleでは「デジタルレガシー(Digital Legacy)機能」が導入され、本人が生前に“遺族アクセスキー”を設定しておけば、死亡後に指定した家族がアカウントデータにアクセスできるようになりました。
もしこの設定がされていない場合は、Appleサポートへ「故人のアカウントアクセス申請」を行います。必要書類は以下の通りです。
- 故人の死亡証明書
- 申請者が法的相続人であることを示す書類(遺言書や裁判所の命令書)
- アカウントに登録されたメールアドレスや端末のシリアル番号
Appleはセキュリティが厳しく、申請が通ってもパスワードの提供は行われません。代わりに、特定のデータ(写真・連絡先など)をダウンロード可能にする形式で対応します。
Facebook(追悼アカウント・削除申請)
Facebookは、ユーザー死亡後のアカウント管理に関して明確な制度を持つ数少ないSNSです。
本人が生前に「追悼アカウント管理人(Legacy Contact)」を設定しておけば、亡くなった後にアカウントを「追悼アカウント」へ変更し、友人や家族が思い出として閲覧できるようにできます。
設定がない場合でも、家族が申請してアカウントを削除することが可能です。
申請時に必要なのは、死亡証明書(または死亡記事)と申請者が近親者であることを証明する身分証明書です。
Facebookは個人情報保護の観点から、ログイン情報の引き渡しは行いませんが、追悼アカウントとして残すか完全削除するかは選択できます。
Instagram(Meta社)
InstagramはFacebookと同じMeta社が運営しており、仕組みも類似しています。
遺族は「追悼アカウント」への変更、または削除申請を行えます。
削除申請には死亡証明書のコピーが必要で、オンライン申請フォームから手続き可能です。
投稿内容や写真はMeta社のサーバーに保存されたままになるため、公開を継続するか削除するか、家族でよく相談して決めることが重要です。
LINE(メッセージ・写真・スタンプ等)
LINEアカウントは多くの人の連絡手段となっていますが、死亡後に内容を閲覧する公式手段は基本的に用意されていません。
本人のスマートフォンが使える場合は、端末ロックを解除してアプリにログインした状態でバックアップを取得できますが、LINEがパスワードを第三者に開示することはありません。
機種変更や解約の際は、通信キャリアを通じて契約者死亡の届け出を行い、同時にLINEアカウントを停止するよう依頼します。
未読メッセージや写真は消えてしまうため、どう扱うかをあらかじめ家族で話し合っておくことが望ましいです。
Twitter(X)
Twitter(現X)も、死亡した利用者のアカウント削除申請を受け付けています。
手続きには、死亡証明書と本人確認書類が必要で、サポートフォームから英語での申請になります。
ただし、投稿データやDMの開示は行われず、削除か放置のいずれかの対応となります。
Yahoo! JAPAN アカウント
Yahoo! JAPAN IDには、メール(Yahoo!メール)、ショッピング、オークション、PayPayなど、複数のサービスが紐づいています。
死亡後の対応として、家族は「故人のYahoo! JAPAN IDに関する問い合わせフォーム」から申請します。
必要書類は死亡証明書や申請者の本人確認書類などで、認められるとアカウントは削除されます。
Yahoo!メールの内容や購入履歴などの情報は、プライバシー保護のため開示されません。
Amazon・楽天などのECサービス
Amazonや楽天市場などの通販サイトは、クレジットカード情報や購入履歴、サブスクリプション契約などが残っている場合があります。
家族が気づかずに放置すると、自動課金が継続してしまうこともあります。
Amazonでは、カスタマーサービスに死亡の旨を伝え、
- 死亡証明書
- 相続人の本人確認書類
を提出することでアカウントの停止や削除が行われます。
未発送の注文やAmazonプライム会費なども精算対象になります。
楽天市場も同様に、カスタマーセンターに連絡し、書類提出によってアカウント削除が可能です。楽天カードを利用している場合は、カード会社にも連絡を入れて利用停止を行います。
ネット銀行・証券会社
ネット銀行やオンライン証券会社は、デジタルアカウントの中でも特に重要な部類です。
死亡後はログインせず、必ず相続手続きとして正式に申し出る必要があります。
代表的な例として、楽天銀行、住信SBIネット銀行、PayPay銀行などでは、「相続受付窓口」へ死亡届と戸籍謄本を提出します。銀行は残高を確認し、相続人代表へ通知を行った上で、遺産分割協議書に基づき資産を移転します。
証券会社(SBI証券、楽天証券など)も同様に、ログインによる取引は一切できません。死亡届を提出後、すべての取引が停止され、名義変更や払戻しの手続きを経て相続が完了します。
暗号資産(仮想通貨)ウォレット
ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、デジタルアカウントの中でも最も注意が必要です。
中央管理者が存在しないため、故人が残した秘密鍵やウォレット情報がなければ、誰もアクセスできません。
取引所を通じて保有していた場合(例:bitFlyer、Coincheckなど)は、死亡証明書と戸籍謄本、相続人の身分証を提出することで、相続手続きが可能です。
一方で個人ウォレット(メタマスクなど)を使っていた場合は、秘密鍵やシードフレーズが唯一のアクセス手段となるため、事前に紙や外部メディアで安全に保管しておく必要があります。
まとめ
故人が利用していたデジタルアカウントは、サービスごとに対応方針が異なり、パスワードを開示する会社はほとんどありません。
そのため、家族ができる最も現実的な方法は、死亡証明書などの書類を揃え、各サービスの公式窓口に「削除」または「相続」申請を行うことです。
特にGoogle、Apple、Facebookなどは、故人の死後対応が明確に整備されています。
一方で、暗号資産や個人管理のアカウントは本人以外がアクセスできないため、生前からの準備が不可欠です。
デジタル時代の遺品整理では、「アカウントを見つける」「正規の手続きで処理する」「不正アクセスをしない」という3つの原則を守ることが、最も重要です。






