故人の車の廃車手続き
家族が亡くなったあと、遺品の整理と並行して必ず行わなければならないのが 自動車の名義変更(相続手続き)または廃車手続き です。車は法律上「動産」として扱われる相続財産であり、故人名義のまま公道で使用したり、売却したり、任意保険を変更することはできません。
また、車検や自動車税、保険料などの問題もあるため、車に乗らないのであれば、早めに廃車手続き(抹消登録)を行うことが極めて重要 です。
ここでは、故人の車を廃車にする際に必要な手続き、必要書類、手順、注意点、相続関係書類の扱い、費用や期間などについて、実務的にわかりやすく詳細に説明します。
故人の車は「相続財産」になる
まず大前提として、故人名義の車はすべて 相続財産 となります。
- 車検証
- 自動車税
- 任意保険
- 車庫証明の名義
これらはすべて故人名義となっているため、廃車も売却も相続人が代理で行うことはできません。
必ず 相続人としての立場 を証明して手続きする必要があります。
廃車には2種類ある
自動車の廃車手続きには、目的によって2種類があります。
一時抹消登録(車を一時的に使用しない)
- 車を今後使用する予定はないが、輸出する可能性がある
- 部品取り車にしたい
- 一時的に保管したい(廃車するか売るか未定)
という場合に行う手続き。
ナンバーを返却し、車は公道で走れなくなりますが、再登録すれば再び乗れます。
永久抹消登録(完全に廃車する)
車を完全に解体し、公道で二度と走れない状態にする手続き。一般的な「廃車」がこれです。
- 車を乗らない
- 処分したい
- 廃棄物として手放す
- 買取業者に引き渡す
ほとんどのケースがこの「永久抹消登録」になります。
故人の車を廃車するための前提:一度相続する必要がある
故人名義の車は、相続人に名義を移さないと廃車手続きができません。
つまり、
(1)故人 → 相続人への名義変更(相続)
(2)相続人 → 廃車手続き(抹消登録)
という2段階の手続きが必要です。
ただし、実務では
「相続→廃車」を同時に進められるケースが多く、
相続人の代表者を決めて、その人が陸運局で手続きを行います。
故人の車の廃車に必要な書類(非常に重要)
廃車手続きに必要な書類は、以下の2つに大別できます。
相続関係を証明する書類(必須)
故人の財産を相続するためには、相続人が誰かを証明する必要があります。
① 故人の戸籍謄本(出生から死亡までのすべて)
これにより、
- 誰が相続人か
- 子ども・配偶者の有無
- 養子の有無
などが証明されます。
② 相続人全員の戸籍謄本
各相続人が確定するために必要。
③ 相続人全員の「印鑑証明書」
相続人全員の実印が必要です。
なぜ必要かというと、車の処分は「相続財産を処分する行為」なので、相続人の合意が必要だからです。
④ 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
内容:
- 「誰が車を相続するか」を明記
- 相続人全員の署名・押印
- 形式自由
例文:
「故 〇〇〇〇の所有する自動車(車台番号×××××)は、長男△△が相続し処分するものとする。」
これがないと、相続人代表者が陸運局で廃車手続きができません。
車の廃車手続きに必要な車両書類
ここからは通常の廃車必要書類です。
① 車検証
故人名義の車検証。
これがないと廃車できません。
② ナンバープレート(前後2枚)
永久抹消の場合は必須。
亡くなった方の車庫で見つからない場合は「再交付手続き」が必要です。
③ 相続する人の身分証明書(運転免許証など)
手続きの本人確認のため必要です。
④ 委任状(代理人が手続きする場合)
廃車代行業者が行う場合は必須。
⑤ 自賠責保険証明書
廃車後、解約または還付手続きに使用します。
故人の車を廃車する流れ(具体的手順)
ここからは、最も実務的な手順を示します。
STEP1:車の状態を確認する
- 車が動くか
- 車検の残り期間
- 事故車・不動車か
- 買取価値があるか
価値がある場合、「廃車」ではなく「売却」が可能で、廃車より得になります。
STEP2:相続人を確定する(戸籍収集)
前述の戸籍を揃えて相続関係を確定します。
- 配偶者
- 子ども
- 兄弟姉妹
などの相続関係により、必要な戸籍数が変わります。
STEP3:遺産分割協議書を作成する
車を誰が相続し、廃車手続きを行うかを決定します。
- 相続人全員の同意
- 全員の署名・実印
- 印鑑証明書添付
これがないと手続きはできません。
STEP4:陸運局(運輸支局)に行き、「相続による名義変更」を行う
ここで
故人 → 相続人
へ名義変更を行います。
書類:
- 戸籍一式
- 遺産分割協議書
- 車検証
- 印鑑証明書
- 申請書(陸運局で入手)
これを行わないと、廃車はできません。
STEP5:相続人名義になった車を廃車(抹消登録)する
ここで本体の廃車手続きを行います。
必要な書類:
- 車検証
- ナンバープレート
- 印鑑証明書
- 申請書
- 手数料350円前後
- 自賠責の証明書
陸運局の「抹消登録窓口」で手続きします。
STEP6:自動車税・軽自動車税の還付手続き
廃車すれば、自動車税の還付(普通車のみ)が発生します。
- 4月に払った税金が月割で戻る
- 還付先は相続人名義の口座
軽自動車は還付がありません。
STEP7:自賠責保険の解約・還付
自賠責は未経過期間分の返金があります。
手続き:
- 保険会社に解約依頼
- 廃車証明書の提出
STEP8:任意保険の解約 or 名義変更(等級引き継ぎ)
故人の任意保険は自動的に解約されません。
- 相続人が解約
- 等級を家族が引き継ぐことも可能
任意保険の扱いは会社ごとに異なります。
死後に無断で車に乗ると違法(重要)
よくあるトラブル:
- 家族が故人の車をそのまま乗り続ける
- 葬儀のために無断使用した
- 名義変更せずに乗っていた
これは 道路交通法違反 だけでなく、事故時は保険が使えません。
事故を起こした場合:
- 任意保険は無効
- 相手への損害賠償は全額自己負担
- 刑事責任・民事責任の両方が発生
絶対に乗ってはいけません。
廃車の費用と時間
費用
- 永久抹消:350円前後
- 代行業者利用:1〜3万円
- レッカー代:無料〜1万円(業者による)
車に価値がある場合は 買取価格のほうが多くなる こともあります。
期間
- 必要書類が揃っていれば1日で可能
- 戸籍収集に1〜2週間
- 故人の戸籍が複雑な場合は1ヶ月かかることもある
廃車ではなく「売却」のほうが得になるケース
相続人の多くが誤解しているのは、
「動かない車=廃車」
ではないということです。
以下は買取になる可能性があります。
- 外車
- 新車に近い車
- 事故車
- 水没車
- 古い軽自動車
- バン・トラック
エンジンが壊れていても価値があります。
まとめ:故人の車の廃車は“相続手続き”である
最後に重要ポイントをまとめます。
故人の車は相続財産であり、勝手に廃車できない
廃車には相続手続き(戸籍・遺産分割協議)が必須
相続 → 廃車 を同時に行える
ナンバー、車検証、自賠責は必ず必要
自動車税・自賠責の還付がある
死後に勝手に車を使用すると重大な違法行為
価値があるなら売却したほうが得
故人の車の廃車手続きは、相続手続きと密接に関係しており、はじめての人には複雑に感じるかもしれません。しかし、必要書類と流れを理解し、相続人の合意と戸籍を揃えれば、1日で廃車手続きが完了します。





