故人が連帯保証人になっているのを知らなかったときに相続後に起こりうること
相続手続きの中でも特に注意が必要なのが、故人が生前に連帯保証人になっていたケースです。遺品整理や相続準備をしている段階では、保証契約に関する書類が見つからず、相続人がその事実を知らないまま相続をしてしまうことがあります。ところが、故人が連帯保証人になっていた場合、その保証債務は相続人に承継されるため、後から思わぬ請求を受けて困惑する事例が数多くあります。
以下では、相続人が故人の連帯保証債務を知らなかった場合に何が起こるのか、法律的な仕組み、実務で起こりうるトラブル、対処方法について詳しく解説します。
連帯保証債務は相続される
相続では、プラスの財産(預金・不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金・ローン・保証債務)もすべて相続されるという原則があります。これは民法の基本ルールで「包括承継」と呼ばれます。
連帯保証人は、主債務者と同等の責任を負う契約であり、主債務者が返済できない場合には連帯保証人が全額を返済する義務を負います。したがって、故人が連帯保証契約を結んでいた場合、その保証債務も相続人に引き継がれます。
相続人がその事実を知らなかったとしても、法律上は相続した時点で責任を負うことになります。
連帯保証債務は隠れていることが多い
連帯保証契約は、目に見える形の資産や借金と違い、書類が見つからないことも多く、相続人が気づけないケースが非常に多い債務です。たとえば次のようなケースがあります。
- 故人が知人の借り入れの保証をしていた
- 子どもや親族の事業資金の保証人になっていた
- 会社経営者として取引先の保証をしていた
- 知り合い同士の連帯保証契約で書面が残っていなかった
これらは遺品の中に契約書が存在しないことも多く、相続人が事前に把握することは容易ではありません。
相続後に起こりうる代表的なトラブル
相続後、連帯保証債務が発覚した場合、相続人にはいくつかのリスクがあります。順に見ていきます。
1. 金融機関や保証会社から突然の請求がくる
最もよくあるのが、金融機関や保証会社から突然請求書が届くケースです。
「主債務者が返済不能になりました。連帯保証人である故人の相続人が返済してください」
という通知が届くことがあります。
相続放棄をしていなければ、相続人は法律上この請求に応じなければなりません。
特に、主債務者の支払いが滞って数か月経過してから通知が来るため、相続発生から時間が経っていることも多く、相続放棄の期限である「三か月以内」を過ぎている場合もあります。
2. 大きな金額の負債を背負う可能性がある
連帯保証債務は、主債務者が返せない場合には、全額を相続人が負担する可能性があります。
保証金額が数百万から数千万円に及ぶことは珍しくなく、相続人が返済できない場合には、次のような事態も起こります。
- 預金が差し押さえられる
- 給料の差押え
- 不動産が差し押さえられ競売にかかる
相続人が全く知らなかった場合でも、法律上は責任を免れません。
3. 相続人同士でトラブルになる
複数の相続人がいる場合、連帯保証債務の負担をめぐってトラブルになることがあります。
- 誰が責任を負うのか
- 財産分けをどう調整するのか
- 誰かが負債の一部を立て替えていた場合の精算
などの問題が生じます。
4. 相続財産がプラスだったとしても、保証債務でマイナスに転じる
相続財産がある程度残っていると、相続人は「問題ない」と思って単純相続を選びがちです。
しかし後から連帯保証債務が発覚すると、
- 受け取った財産を上回る債務
- 予期せぬ多額の返済義務
が発生することがあります。
相続時に保証債務が見えにくいことが、トラブルを深刻化させる主因となっています。
相続放棄できる期限は三か月
相続人は、相続開始を知った日から三か月以内に
- 相続する(単純承認)
- プラスの財産の範囲で相続する(限定承認)
- 相続を放棄する(相続放棄)
のいずれかを選ぶ必要があります。
しかし連帯保証債務は、相続時に判明しにくいため、三か月以内に気づけないケースが多々あります。
連帯保証債務に気づかなかった場合の救済制度
相続人が連帯保証債務の存在を知らなかった場合、いくつかの救済措置が利用できる可能性があります。
1. 相続放棄の「期間伸長」を裁判所に求められる場合がある
次のような条件を満たすと、三か月を超えても相続放棄が認められる可能性があります。
- 相続人が連帯保証契約の存在を知り得なかった
- 故人の財産状況が複雑で判断が難しかった
- 相続時に保証債務を確認することが出来なかった
家庭裁判所は、状況に応じて相続放棄を認めることがあります。
2. 相続財産が少額である場合、早期の単純承認とみなされないことがある
相続財産を一部使用してしまっていても、裁判所が「管理の範囲」と判断すれば単純承認と扱わないケースもあります。
3. 限定承認を利用する方法もある
限定承認を利用すれば、プラスの財産の範囲内だけで負債を返済することができます。
ただし相続人全員の合意が必要で、手続きが複雑です。
相続開始後に確認しておくべきポイント
連帯保証債務の発見を遅らせないためには、次の点を確認することが大切です。
- 故人の通帳の入出金履歴
- 郵便物や督促状の確認
- クレジットカードやローン契約
- 仕事関係や知人関係の聞き取り
- 保証協会からの通知の有無
- 事業をしていた場合の法人契約の保証関係
保証契約は表面化しにくいため、できる限り情報収集することが重要です。
知らなかった連帯保証債務をどう防ぐか
連帯保証債務のリスクは、相続人の努力だけでは完全に防げない側面がありますが、以下の対策が有効です。
- 専門家(司法書士・弁護士)に相続財産調査を依頼する
- 故人の仕事関係者・知人に聞き取りを行う
- 遺品整理業者と連携し、金融関係の郵便物や契約書を重点的に確認する
情報が不足しているほど、後から重大な債務が発覚する可能性があります。
まとめ
故人が生前に連帯保証人になっていた場合、その保証債務は相続人に承継されます。相続人が知らなかったとしても、相続した瞬間に連帯保証債務を引き継ぐことになり、後から金融機関や保証会社から高額な請求を受けることがあります。
相続放棄には三か月の期限があるため、早い段階で連帯保証債務の有無を確認することが重要です。もし相続後に保証債務が発覚したとしても、事情によっては相続放棄や救済措置が認められる場合があります。
相続と連帯保証は非常に複雑で、相続人だけで対処するのが難しいケースも多いため、早めに専門家へ相談し、適切な方法でリスクを回避することが大切です。





