故人のローンを引き継ぎたくない

故人のローンを引き継ぎたくない

人が亡くなったとき、その人が生前に利用していた各種ローン(住宅ローン、自動車ローン、カードローン、キャッシング、ショッピングリボ、事業用借入など)は、法律上は相続の対象になります。つまり、残された家族が、故人の預金や財産を受け取る権利を持つ一方で、ローン(債務)についても基本的には引き継ぐ義務が生じるのです。

しかし、多くのご家庭では「借金を返済したくない」「負の財産は引き継ぎたくない」と考えます。特に、遺品整理の現場では返済能力のない相続人が困ってしまう事例が数多く見られます。

では、相続人が「故人のローンを返済したくない」と考える場合、どのような方法を取るべきなのでしょうか。以下では法律に基づきながら、実務の流れや注意点を交えて詳しく説明します。


1. 基本原則:相続するとローンも引き継ぐ

民法では、相続は“プラスの財産もマイナスの財産も包括的に承継する”と定められています。
つまり、

  • 預貯金、現金、土地や家屋、車、株式などの財産
  • 住宅ローン、車のローン、カードローン、事業の借入、税金滞納などの負債

これらは セットで引き継ぐ のが原則です。

そのため、相続手続きで遺産を受け取る意思を表明すると、故人のローンも同時に承継してしまうことになります。


2. ローンを返済したくない場合の3つの選択肢

相続人が故人の借金を引き継ぎたくないと考えるとき、法律上の選択肢は次の3つです。

① 相続放棄をする(最も確実で一般的)

故人のローンを返済したくない場合、最も確実な方法が 家庭裁判所で相続放棄をすること です。

● 相続放棄とは?

相続放棄をすると、

  • 故人の全財産(現金・家・車・預金など)
  • 故人の全負債(ローン・借金・税金滞納)

これらを一切引き継がないことができます。

つまり、相続放棄をすれば、

✔ 故人が残したローンは一切返済しなくてよい
✔ 故人名義の財産も一切受け取れない
✔ 法律上は「はじめから相続人ではなかった」扱いになる

という非常に強力な制度です。

● 相続放棄の期限

相続放棄には法的な期限があります。

相続があったことを知った日から3か月以内

これを「熟慮期間」と呼びます。

たとえば、

  • 親が亡くなり、自分が相続人になったと知った日
  • 遺品整理中にローンや借金が見つかり、相続財産がマイナスだと分かった日

この日から 3か月以内 に家庭裁判所へ申述(申し立て)をしなければなりません。

● 期限を過ぎた場合は?

原則は不可ですが、例外的に

  • 相続財産を全く知らなかった
  • 借金の存在を知らなかった
  • 特別の事情があった

と裁判所に認められれば、熟慮期間を延ばすことができます。

行政書士や司法書士、弁護士に依頼すれば成功率が高まります。

② 限定承認をする(プラスが多い時に選ぶ)

「限定承認」とは、故人が残したプラスの財産の範囲内でのみ借金を返済するという制度です。

● 限定承認の特徴

  • プラスの財産 < マイナスの財産 → 差額は払わなくてよい
  • プラスの財産 > マイナスの財産 → 差額を受け取れる
  • 相続放棄と違って、故人の財産を残せる可能性がある

ただし、限定承認は以下のデメリットがあります。

● 限定承認のデメリット

  • 相続人全員で手続きする必要がある
  • 手続きが複雑
  • 税務申告も必要
  • 専門家の費用がかかる

そのため、実務的には利用例が少ない制度です。

しかし、

  • 故人名義の不動産を残したい
  • 家業を続けたい
  • 貸金庫に何が入っているか分からず判断できない

といったケースでは有効な選択肢となります。

③ 個別のローン契約に保険(団信)が付いている場合は免除されることがある

ローンによっては、契約者が亡くなるとローン残高が全額免除される保険が付いている場合があります。

代表例:

  • 住宅ローンの団体信用生命保険(団信)
  • 自動車ローン・残クレの一部生命保険付きプラン
  • カードローンの死亡時免除特約

これに該当する場合、相続人は返済不要です。

● 注意点

  • 団信は健康状態によって加入できない人もいる
  • 自動車ローンの死亡免除はついていないことが多い
  • クレジットカードの「死亡免除」は付帯条件が厳しい

必ず契約書や金融会社へ確認する必要があります。


3. ローンを引き継がずに済ませたい場合の実務的な流れ

ここでは実際に遺品整理の現場でよくある手順を、実務ベースで説明します

① 故人の財産と負債の全体像を把握する

まずは遺品整理をしながら、以下を確認します。

  • 通帳、キャッシュカード
  • クレジットカード
  • ローンの契約書
  • 銀行からの郵送物
  • 消費者金融からの通知
  • 車の残債情報
  • 税金の未払い通知(住民税、固定資産税など)

借金がありそうかどうかは、郵便物や明細などから推測できます。

② 「相続放棄をするかどうか」を3か月以内に判断する

ローンの額が大きい、何社も借りている、財産より借金の方が多いと感じた場合は、

相続放棄を選ぶのが基本

家庭裁判所で手続きを行います。


③ 相続放棄完了後は、金融機関からの請求は一切受けない

相続放棄が受理されると、ローン会社は相続人に請求できません。

ただし注意点として、

  • すでに受け取った遺品(現金・家電・車など)があれば返還が必要な場合がある
  • 勝手に故人の財産を処分すると「単純承認」と見なされ相続放棄できなくなる

という点があります。


4. 相続放棄をしても返済義務が残るケースはあるのか?

基本的にはありませんが、例外があります。

① 連帯保証人になっていた場合

相続放棄をしても、

  • 故人が誰かの連帯保証人だった
  • 故人のローンの連帯保証人に相続人がなっていた

などの場合、保証債務は別問題です。
保証契約は相続放棄しても消えません。

② 故人の財産を処分すると相続放棄できない

以下の行為をすると、「相続を受けた」と判断されます。

  • 故人名義の預金を引き出す
  • 車や家電を売却する
  • 家屋をリフォームする
  • クレジットカードを使用する

これを「単純承認」といいます。

単純承認してしまうとローンもそのまま相続することになり、放棄できません。


5. 相続放棄しても遺品整理は可能なのか?

結論:可能です。

ただし、

  • 財産の処分はNG(勝手に家財を売ることはできない)
  • あくまで「管理目的の処分」に限られる

という制限があります。

例:

  • 腐敗する食品を捨てる
  • ゴミを片付ける
  • 家屋の鍵を閉めて保全する
  • 必要最低限の清掃

この程度なら問題ありません。

専門の遺品整理業者に依頼する場合も、
「相続放棄予定であること」
を事前に伝えるとスムーズです。


6. まとめ:ローンを返済したくないなら相続放棄が最も有効

故人のローンを引き継ぎたくない場合の結論をまとめると以下の通りです。

● ローンを返済したくない場合の3つの方法

  1. 相続放棄(最も現実的)
  2. 限定承認(レアなケースだが有効な場合も)
  3. 団信などの保険で免除される場合あり

● 最重要ポイント

  • 相続放棄は“3か月以内”に行う
  • 勝手に財産を使うと放棄ができなくなる
  • 専門家への相談が成功の鍵
  • 遺品整理は「管理目的」なら可能

ローンを引き継ぎたくない場合に相続放棄が最適な理由は、法律上もっとも強力な「借金免除」の手段であり、確実に相続人を保護してくれる制度だからです。