残クレが残っている車の相続

残クレが残っている車の相続

残価設定クレジット、いわゆる「残クレ」は、近年多くの自動車購入者が利用している購入方法であり、契約期間の最後に残価(将来の下取り予想額)を据え置き、月々の支払いを抑えることができるという特徴があります。しかし、この契約がまだ残っている状態で契約者が亡くなってしまった場合、相続人はどのように対応すればよいのか、手続きの流れや注意点が非常に複雑で分かりにくいという問題があります。以下では、相続の基本概念から実際の手続き、選択肢、リスクまでを詳しく説明します。


残クレ契約の法的な位置づけと相続の基本

まず、残クレ契約は「自動車の購入契約」というよりも、どちらかというとローン契約(割賦販売契約)に近い性質を持っています。多くの場合、車の名義はクレジット会社やディーラーの関連会社が持ち、契約者は使用者として車を利用します。この点が通常の自動車ローンと大きく異なります。

契約者が死亡すると、その契約上の権利・義務はすべて相続人に引き継がれます。つまり、

  • 支払い義務(残りのローン)
  • 契約満了時の選択肢(買取・返却・再ローン)
  • 車両の使用権

などが相続の対象となるのです。

ただし、車の「所有者」がクレジット会社である場合、相続人は所有権を相続するわけではなく、あくまで契約を引き継ぐ権利義務の相続となります。


残クレ車を相続する際の大まかな流れ

残価設定クレジットの車を相続する際の手続きは、以下の手順で進むことが一般的です。

死亡の事実をクレジット会社に連絡する

最優先で必要なのは、契約中のクレジット会社(またはディーラー)に契約者死亡の事実を連絡することです。これを怠ると、支払いが滞り、遅延損害金が発生する可能性があります。

必要な書類の例:

  • 死亡診断書または除籍謄本
  • 相続人代表者の本人確認書類
  • 相続関係を証明する戸籍謄本

相続手続きの意向を伝える

クレジット会社は、相続人に対して次のいずれを希望するか確認します。

  1. 契約を引き継ぐ(支払いを継続する)
  2. 車を返却して契約を終える
  3. 一括返済して車を買い取る

どれを選ぶかは後述の通り状況によって変わります。

名義の変更(使用者の変更)

残クレ契約では所有者はクレジット会社のままですが、使用者の名義変更(相続人への変更)が必要になります。

自動車検査証の「使用者」欄を書き換えるために、陸運局で以下の手続きが必要です:

  • 自動車検査証
  • 相続人の住民票
  • 印鑑証明
  • 相続を証明する戸籍関係書類
  • クレジット会社の承諾書

これにより、車は相続人が正式に使用できる状態になります。


残クレ車を相続する際に選べる3つの選択肢

残価設定クレジットが残っている車を相続した場合、相続人が取れる選択肢は次の3つです。


契約を引き継いで支払いを継続する

もっとも一般的な方法です。

  • 車が比較的新しく、状態が良い
  • 相続人が車を使い続けたい
  • 残クレの月々の支払いが無理なく払える

こうした場合には契約を引き継いで支払いを続けるのが自然です。

ただし注意点として、

  • 相続人の信用審査が必要になる場合がある
  • 契約者が変わるため、金利条件が若干変わる可能性もある

という点があります。


車を返却して契約を終了する

車を使用しない場合や支払いが困難な場合には、返却して契約を終了するのがもっとも合理的です。残クレはもともと「返却する」ことを前提とした契約なので、この方法は法律上も問題ありません。

ただし、

  • 過走行(走行距離超過)
  • 傷・事故歴
  • 修復歴ありの車両

などがある場合には、追加精算(いわゆるペナルティ)が発生することがあります。

特に、

  • 契約者が亡くなる前に大きな事故を起こしていた
  • 走行距離が基準より大幅に多い

といった場合、返却すると数十万円の清算金が発生する可能性があるため、事前に必ず査定を受けて判断することが重要です。


一括返済して車を買い取る

車を完全に相続したい場合は「残額を一括返済する」という方法もあります。

メリット:

  • 車の所有者が相続人になる
  • 以後の支払いがなくなる
  • 売却も自由にできる

デメリット:

  • 残価部分を含めた大きな金額が必要
  • 相続税の対象となる

特に相続税については、車の市場価値で評価されるため、

  • 残クレの残債とは関係なく、中古車としての実勢価格で評価される

点に注意が必要です。


どの選択肢が良いのか?判断のポイント

相続人が残クレ車の扱いを選択する際は、以下のポイントで判断すると良いでしょう。

● 車が必要かどうか

使う予定がないなら返却が基本です。

● 残価と市場価格の関係

もし市場価格 > 残価であれば、買い取って売却するとプラスになる場合もあります。

● 相続税の観点

車の評価額は市場価格で決まるので、残債とは無関係です。
これは相続人が誤解しやすいポイントです。

● 支払い継続が可能か

年金暮らしの親の車を子どもが相続する際など、
毎月数万円の追加負担が長期にわたる場合、負担になることがあります。


遺品整理の現場でよくあるトラブルと注意点

残クレ車の相続では、以下のようなトラブルが頻発します。

車の所有者が誰か分からず手続きが進まない

残クレ車は所有者がクレジット会社名になっているため、相続人が「亡くなった人の名義ではないから相続対象ではない」と誤認するケースが多いです。
しかし、契約上の権利義務が相続されるため、放置は禁物です。

返却したら高額な清算金を請求された

走行距離オーバーや傷のある車を返却した場合、数十万円規模の請求が来ることがあります。これは契約上当然の処理のため、相続人は事前に査定を確認することが重要です。

支払いを放置して遅延損害金が膨らむ

相続人の中で「誰が払うか」で揉めるケースが多く、結果としてローンが滞ることがあります。
残クレは滞納すると、

  • 遅延損害金の発生
  • 車の引き揚げ
  • 相続人の信用情報に影響(条件次第)

などのリスクがあるため、早めの対応が不可欠です。


残クレ車を相続する際のまとめ

残価設定クレジット契約が残っている車を相続する場合、相続人には以下の選択肢があります。

  1. 契約を引き継いで支払いを継続する
  2. 車を返却して契約を終了する
  3. 残額を一括返済して車を買い取る

どの方法を選ぶにせよ、まずはクレジット会社やディーラーに連絡し、必要書類を揃えて使用者名義の変更手続きを進めることが絶対条件です。同時に、車の状態や残債、相続税の評価額などを総合的に考え、もっとも負担の少ない方法を選択することが重要です。

残クレ車の相続は通常の車両相続よりも複雑で、返却精算や残債、名義問題など多くの注意点がありますが、正しい知識を持って手続きすればスムーズに進行できます。特に遺品整理の現場では、車の取り扱いは大きな問題となりやすいため、相続人が早期に判断できるよう、専門家(司法書士・税理士・行政書士など)への相談も有効です。

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