遺品で骨董品が出てきた場合の相続方法
遺品整理を行っていると、生活用品や写真などに混ざって、骨董品・美術品・絵画・掛け軸・陶磁器など、価値のある遺品が見つかることがあります。
見た目は古くても、実は高価な骨董品であったり、有名作家の絵画であったというケースも少なくありません。
こうした骨董品・美術品は「動産(どうさん)」として相続財産に含まれ、相続税の課税対象となる可能性があります。
ここでは、遺品で骨董品が出てきた場合の相続の流れ、評価方法、相続税の計算上の注意点などを具体的に解説します。
骨董品・美術品は「動産」として相続財産に含まれる
故人が所有していた財産はすべて「遺産」に該当し、相続人がこれを承継します。
遺産には預金や不動産だけでなく、動産(どうさん)=形のある所有物も含まれます。
したがって、骨董品や絵画、古美術品、アンティーク家具なども、法律上は相続財産に分類されます。
民法上の扱いでは、これらは「家庭用動産」として評価され、他の遺産と同様に遺産分割協議の対象になります。
相続税法でも、骨董品・美術品は相続税評価額に含めるべき財産とされており、評価額に応じて相続税が課されます。
骨董品や美術品の相続税評価の基本
相続税法では、骨董品・絵画・貴金属などの評価は「時価」で行うことが原則です。
つまり、相続開始時(被相続人の死亡時)における市場価格を基準に評価します。
この評価には以下のような区分があります。
美術品・骨董品の評価方法
- 市場で売却した場合の実勢価格(オークションや古美術市場の相場)
- 専門家による鑑定評価額
- 同種・同作家の作品の取引事例
などを参考にして「時価」を算定します。
税務署が発行する「財産評価基本通達」第157条では、次のように定められています。
美術品、骨董品等は、その取引価額(市場価格)によって評価する。
ただし、通常の生活に通常必要な家具、什器、衣類等は評価しない。
つまり、**一般的な生活用具(家具や日用品)**は評価の対象外ですが、収集目的・投資目的で所有していた美術品・骨董品は相続税評価の対象になります。
生活用財産と課税対象の境界線
相続税法では「通常の生活に通常必要な動産」は非課税扱いです。
たとえば、一般家庭の食器や洋服、家電などは相続税評価に含める必要はありません。
しかし、次のような場合は課税対象となります。
- 美術品や骨董品を収集目的で所有していた
- 投資・資産保全目的で購入していた
- 展示用・鑑賞用として特別に保管・管理されていた
- 作家名・鑑定書・市場価値などが明確である
たとえば、「祖父が趣味で集めた茶道具一式」や「日本画家の作品を複数所有していた」などの場合は、税務上の「動産評価」が必要になります。
逆に、日常的に使用していた茶碗や花瓶などは課税対象外となるケースが多いです。
評価額の算定方法と実務の流れ
骨董品や絵画は、一般的な不動産や預金のように明確な価格がないため、専門家の鑑定が必要になります。
以下に、実際の評価手順を示します。
遺品整理での発見
遺品整理の際、古い掛け軸・茶道具・絵画・陶磁器などが出てきた場合、まずは保管しておきます。
「古そうだが価値が分からない」ものこそ、鑑定の対象になります。
専門家への鑑定依頼
美術商・骨董品鑑定士・遺品査定士などに鑑定を依頼します。
出張査定や写真鑑定も可能で、作品の作者名・制作時期・保存状態・市場需要などから評価額を算出します。
評価書・鑑定書の取得
鑑定結果が「評価書」や「鑑定書」としてまとめられます。
この評価額が「相続税評価額」として税務申告に利用されます。
相続税の申告書に記載
相続税の申告書には、財産目録として「美術品・骨董品類」を記載します。
例:
- 骨董品一式(鑑定評価額:300万円)
- 絵画2点(合計評価額:150万円)
などと記載し、評価書の写しを添付するのが一般的です。
評価額の具体例
以下は実際の目安となる評価イメージです。
| 種類 | 内容 | 評価額の目安 |
|---|---|---|
| 絵画(有名作家) | 東山魁夷、平山郁夫など | 50万〜500万円以上 |
| 掛け軸(古書画) | 江戸〜明治期の真作 | 10万〜300万円 |
| 茶道具(人間国宝作) | 楽焼、備前焼など | 20万〜200万円 |
| 仏像・仏具 | 古代〜江戸期のもの | 10万〜数百万円 |
| 骨董刀(登録証あり) | 室町〜江戸時代 | 30万〜300万円 |
| 古銭・金貨 | 金貨・記念硬貨など | 数千円〜数十万円 |
もちろん、これはあくまで目安です。作者・状態・希少性によって数倍〜数十倍の開きが生じます。
相続税評価に関する注意点
高額品を過小評価すると税務署から指摘される
税務署は、過去の相続事例や市場データから相場を把握しており、明らかに低すぎる評価額を申告すると修正申告を求められる可能性があります。
鑑定書や取引記録を添付することで、適正評価であることを証明できます。
遺族間でのトラブル
骨董品は現金と違い分割が難しいため、「誰がどれを相続するか」で揉めやすい財産です。
価値が高い品については、相続前に専門家の評価を共有し、公平な分配を心がけることが大切です。
相続後に売却した場合の課税
相続税申告後に骨董品を売却して利益が出た場合、その差額は「譲渡所得」として所得税の課税対象となります。
ただし、取得費や売却手数料などを控除できます。
相続税の計算への反映
骨董品の評価額は、他の財産(不動産・預金・株式など)と合算して相続税を計算します。
課税価格の合計から基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)を引いた金額に対して、税率が適用されます。
例:
遺産総額5,000万円(うち骨董品300万円)
相続人が2人の場合
→ 基礎控除 = 3000万+600万×2 = 4200万円
→ 課税対象 = 800万円
→ 税率10% → 相続税額80万円(概算)
このように、骨董品の価値が数百万円規模であれば、相続税に直接影響を及ぼすことになります。
遺産分割のポイント
骨董品を遺族間で分ける場合、次のような方法があります。
- 現物分割:実際に品物を分ける
- 代償分割:1人が骨董品を取得し、他の相続人に代償金を支払う
- 換価分割:品物を売却し、売却代金を分ける
最も公平なのは換価分割ですが、思い入れのある遺品の場合は現物分割を希望することも多いです。
いずれにせよ、鑑定評価を基に遺産分割協議書を作成することが重要です。
鑑定費用と節税のヒント
鑑定や査定には費用がかかりますが、正確な評価を行うことで過剰な相続税の支払いを防ぐことができます。
また、以下のような節税ポイントもあります。
- 骨董品が生活必需品として使用されていたことを立証できれば、課税対象外にできる場合がある
- 遺品を寄付(美術館・公共団体)すると、寄付控除の対象になる
- 売却して納税資金に充てる場合、相続税の延納や物納制度を利用できる
税理士・美術品鑑定士・遺品整理士が連携して対応することで、スムーズかつ正確な申告が可能になります。
専門家への相談が不可欠
骨董品の相続は、法律・税務・美術の三分野にまたがる複雑なテーマです。
判断を誤ると、「相続税を払い過ぎる」「価値ある遺品を安く手放す」「税務署から追徴を受ける」といったトラブルにつながりかねません。
そのため、以下のような専門家との連携が理想です。
- 相続税に詳しい税理士
- 美術品・骨董品に精通した鑑定士
- 遺品整理士・古物商
遺品整理業者の中には、これらの専門家と提携して一括対応できるところもあります。
専門家の目を通すことで、適正な評価と公正な相続が実現します。
まとめ
遺品整理で出てきた骨董品や美術品は、相続財産としての価値と文化的価値の両方を持つ特別な存在です。
これらを正しく評価し、適切に申告・分配することが、故人への敬意と家族の安心につながります。
- 骨董品は「動産」として相続税の対象
- 相続開始時点の「時価」で評価
- 鑑定書を添付し、適正な評価額を申告
- 生活用品と区別して整理
- 遺族間で公平に分配または換価
- 専門家に相談してトラブルを回避
相続とは単なる財産の移転ではなく、「故人の想いを次世代へ継ぐ」行為です。
骨董品という形のある遺産を通じて、家族がつながりを再確認できるよう、丁寧な整理と適正な相続手続きを心がけましょう。



