土地を相続する際のトラブル
土地相続の難しさ
相続財産の中でも土地は特にトラブルの原因となりやすい財産です。現金や預貯金であれば分けやすいのに対し、土地は分割が難しく、評価額の算定や利用方法、処分の仕方によって相続人の間で意見が対立しやすくなります。また、登記や税金などの法律的手続きが複雑で、対応を誤ると将来的に大きな問題となることもあります。
以下では、土地を相続する際に実際に起こりやすい代表的なトラブルを例とともに解説します。
遺産分割方法をめぐる争い
土地は物理的に分割することが難しく、相続人が複数いる場合に「誰が所有するか」で対立するケースが非常に多いです。
例:長男が住んでいる土地と次男の不満
被相続人の自宅土地を長男が同居して使用していた場合、長男はそのまま相続したいと考えます。一方で別に暮らしている次男からすると「土地は価値が高いのに現金はほとんどない。長男だけが得をして不公平だ」と不満が生じます。結果として遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所で調停に至ることもあります。
ポイント
土地を一人が取得する場合には、他の相続人に代償金を支払う方法があります。しかし代償金を準備できない場合には対立が激化しやすく、調停や審判に持ち込まれる原因となります。
共有名義によるトラブル
遺産分割協議で解決できない場合、「とりあえず共有名義にしておこう」となることがあります。しかし、この共有状態が後々の大きな火種になるのです。
例:兄弟3人で共有した土地の管理トラブル
兄弟が土地を3分の1ずつ共有したが、売却や建物の建築をしようとすると全員の同意が必要になります。兄弟の一人が海外に住んでおり連絡が取れない、または一人が反対していると、処分や活用ができず土地が「塩漬け」になってしまいます。固定資産税だけが毎年発生し、負担感から関係が悪化することもあります。
ポイント
共有名義は一見公平な方法に見えますが、意思決定に全員の合意が必要となるため非常に不便です。長期的にみればトラブルの原因となる可能性が高い方法です。
境界線をめぐる争い
土地を相続するときには、隣地との境界線がはっきりしていないことがあり、これが相続人間や近隣とのトラブルを招きます。
例:隣地所有者との境界争い
相続した土地に家を建て替えようとしたところ、隣地所有者から「ここはうちの土地だ」と主張され、境界をめぐって裁判に発展するかもしれません。被相続人が生前に境界確定をしておかないと、測量からやり直さなければならず、相続人にとって大きな負担となります。
ポイント
境界が不明確なまま相続してしまうと、売却や活用ができず、資産価値が下がるリスクがあります。土地を相続する前に測量や境界確定を行うことが大切です。
登記をしないことで起きる問題
土地を相続しても相続登記をしないまま放置してしまうケースがあります。これは近年社会問題化している「所有者不明土地」の大きな原因です。
例:相続登記を怠り世代交代で混乱
父から土地を相続したが登記をせず放置。その後、相続人である子が亡くなり、孫世代に権利が移ると、相続人が増えてしまいます。こうなると、誰が相続人かを確認するだけでも膨大な時間と労力がかかり、売却も活用もできない状態となってしまいます。
ポイント
2024年からは相続登記が義務化され、正当な理由なく3年以内に登記をしないと過料が科されることになっています。登記を放置することは将来のトラブルを招くだけでなく法的リスクも伴うため、必ず早めに対応する必要があります。
土地の評価額をめぐる争い
土地は評価方法によって金額が変わるため、相続税の算定や遺産分割協議で揉めることが多いです。
例:市街地の土地をめぐる評価額の違い
相続税の計算では路線価を用いるのが一般的ですが、実際に売却すると路線価よりも低い値段しかつかない場合があります。相続税を現金で納めるために売却しようとしたら思ったより安くしか売れない場合もあります。
ポイント
土地の評価は相続税、売却、実際の市場価値で異なる場合があります。複数の専門家に意見を求めることが望ましく、曖昧なまま進めると争いの火種になります。
特定の相続人への偏り
土地は価値が高いため、一人の相続人が取得すると他の相続人から「不公平だ」と感じられることがあります。
例:介護を担った子への偏った遺産分割
長女が親の介護を長年担っていたため、自宅土地を長女に相続させたいと考えていた。しかし遺言がなかったため、兄弟が「平等に分けるべきだ」と主張し、感情的な対立に発展することも珍しくはありません。
ポイント
遺言がないと「公平性」をめぐって争いが起こりやすくなります。特定の相続人が土地を取得する場合には、遺言書や生前贈与による準備が必要です。
利用方法をめぐる争い
相続した土地を「売却するのか」「賃貸するのか」「そのまま保有するのか」で意見が分かれることがあります。
例:売却派と保有派の対立
兄は土地を売却して現金で分けたいと考えていたが、妹は「先祖代々の土地だから残したい」と主張し対立。結果として協議が長引き、土地が活用されないままになると固定資産税だけを払い続ける状態となってしまいます。
ポイント
土地には経済的価値と感情的価値の両面があります。相続人ごとに価値観が異なるため、遺産分割協議が長期化することも少なくありません。
相続税の納税資金不足
土地を相続した場合、現金がなくても土地の評価額に応じた相続税が課税されます。その結果、納税資金が不足してしまうことがあります。
例:土地しかない相続財産
農地や不動産しかなく、現金がほとんど残されていなかったケース。相続税を支払うために土地を売却しようとしても、買い手が見つからず納税期限に間に合わないというケースも発生します。そうなりますと延滞税が課され、相続人の負担がさらに増えてしまいます。
ポイント
土地の相続は「換金性が低い」ことが大きな問題です。納税資金の準備を事前に検討しておくことが欠かせません。
土地の相続には、分割の難しさ、共有名義の問題、境界争い、登記未了、評価額の違い、利用方針の不一致、税金負担など多岐にわたるトラブルが潜んでいます。いずれのケースも「遺言がない」「事前の準備が不足している」ことが原因である場合が多く、相続人同士の関係悪化につながることも少なくありません。
土地を相続する際には、専門家に相談しながら、境界確定や相続登記、評価額の確認を行い、相続人間での合意形成を丁寧に進めることが、トラブルを未然に防ぐ最良の方法といえるでしょう。




