相続する不動産の評価
不動産を相続する際には、相続税の課税対象となる財産の一部としてその価値を評価しなければなりません。現金や預貯金であれば額面そのままが評価額となりますが、不動産の場合は市場での取引価格(いわゆる時価)と必ずしも一致せず、税法上のルールに基づいて評価額を算出する必要があります。相続税を適正に計算するためには、この不動産評価を正確に行うことが不可欠であり、評価方法によって納税額が大きく変わる可能性があります。以下では、不動産評価の考え方や評価方法、実務上の注意点について詳しく説明します。
不動産評価の基本的な考え方
相続税の算出においては、被相続人が亡くなった時点(相続開始日)における財産の価値を基準に評価します。不動産の評価額は、国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づき、土地・建物ごとに異なる方法で算出されます。土地については路線価方式または倍率方式が、建物については固定資産税評価額を基準にした評価が一般的です。
重要なのは、不動産の評価額が市場価格と乖離することがある点です。相続税法上の評価額は、通常の取引価格より低めに算出されることも多く、納税者にとっては一定のメリットとなる反面、評価誤りや適用方法の違いによっては不利益を被る可能性もあります。そのため、正しい評価方法を理解することが重要です。
土地の評価方法
土地は相続財産の中でも価値が大きく、評価額が全体の相続税額に与える影響も大きいため、評価方法が細かく定められています。代表的な方法は以下の二つです。
- 路線価方式
都市部や主要地域の道路には、国税庁が毎年発表する「路線価」が設定されています。路線価とは、その道路に面する標準的な宅地1㎡あたりの価格を示すもので、通常は公示地価のおよそ8割程度に設定されています。
路線価方式では、相続する土地が接している道路の路線価に、その土地の面積を掛けて評価額を算出します。ただし、形状が不整形であったり、奥行きが長かったり、間口が狭かったりする場合には「補正率」を掛けて調整します。さらに、角地や二方路に面している場合には評価額が増減することもあります。 - 倍率方式
路線価が設定されていない地域については、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けることで評価額を算出します。倍率は地域ごとに国税庁が公表しており、その土地の所在する市区町村や町丁字ごとに異なります。路線価方式に比べてシンプルですが、地域ごとの倍率の違いにより評価額に差が出るため注意が必要です。
さらに、土地の評価にあたっては「利用状況」や「権利関係」も考慮されます。例えば賃貸アパートの敷地など借地権が関わる土地の場合、所有者が自由に使えないため評価額が減額されることがあります。
小規模宅地等の特例
土地の評価額を大きく左右する制度として「小規模宅地等の特例」があります。これは被相続人の居住用または事業用として使われていた土地を相続した場合、一定の要件を満たせば評価額を大幅に減額できる制度です。居住用宅地であれば最大330㎡までの部分について80%の減額が可能です。例えば1億円の評価額の土地であっても、特例を適用すると2,000万円の評価額に圧縮されるため、相続税額が大幅に減少します。
ただし、この特例には同居親族や持ち家の有無などの要件が厳格に定められており、適用の可否を誤ると後に追徴課税を受けるリスクもあります。したがって、不動産評価と同時に特例の適用可能性を確認することが実務上の重要なポイントです。
建物の評価方法
建物の評価は、基本的に固定資産税評価額を用います。固定資産税評価額とは、市区町村が課税のために3年ごとに見直している評価額で、実際の市場価格よりも低く設定されるのが通常です。そのため、建物の評価額は実勢価格に比べて小さくなることが多く、結果として相続税の課税額も低めに算出される傾向があります。
たとえば、新築時に3,000万円で建てた住宅であっても、固定資産税評価額は1,800万円程度に抑えられるケースがあります。これを相続税評価の基礎とするため、建物部分については市場価格との乖離が大きいことが特徴です。
また、貸家や賃貸マンションなど収益物件の場合、単に固定資産税評価額を基準とするのではなく、「貸家建付地」や「貸家」の評価減が適用されます。賃借人が居住している建物は所有者が自由に使えないため、評価額が減額される仕組みです。
権利関係による評価の調整
不動産には所有権以外にも、借地権や地上権、賃借権などの権利関係が付随することがあります。これらの権利は所有者の利用を制限するため、評価額に反映されます。
例えば、借地権付き建物の場合、土地所有者が自由に処分できないため、土地の評価額は借地権割合に応じて調整されます。逆に、借地権そのものを相続する場合には、借地権の価値を相続税の対象として評価する必要があります。
このように、不動産の評価は単純な面積や価格だけでなく、利用制限や権利関係を考慮した複雑な計算が行われるのです。
不動産評価と税務申告の関係
相続税申告においては、相続開始から10か月以内にすべての財産を評価し、申告・納税を行う必要があります。不動産の評価は金額が大きいため、申告額を誤ると追徴課税や延滞税といった不利益が生じます。逆に、評価額を適正に抑えることで相続税の負担を軽減できるため、専門家による正確な評価が推奨されます。
実務上は、路線価図や倍率表を用いた計算を行い、その結果を財産評価明細書に記載して申告書に添付します。評価に疑義がある場合や減額要素がある場合には、補足説明書や測量図などを添付して税務署に説明責任を果たすことが大切です。
評価額と実勢価格の違いに注意
相続税評価額は、あくまで課税上の算定基準であり、実際にその金額で売却できるとは限りません。評価額が5,000万円と算出されても、市場での取引価格は6,000万円であることもあれば、逆に4,000万円しか値がつかない場合もあります。
この違いは、相続人間の遺産分割や将来の売却を考える際に注意が必要です。評価額に基づいて税金を納めた後、実際に売却した際に思ったほど現金化できないケースもあるため、不動産評価は相続税計算だけでなく相続全体の資産戦略にも深く関わります。
このように、不動産の評価は相続税算出の基礎となる重要な作業であり、土地・建物の種類や利用状況、権利関係などを総合的に考慮して算出されます。相続税額は評価額に直結するため、正確な評価を行うことが相続手続き全体の成否を左右するといえます。

