相続の限定承認
限定承認(民法922条)は、相続人が 「相続によって得たプラスの財産の範囲内で、亡くなった人のマイナスの財産(借金など)を弁済する」 という制度です。
つまり、相続財産の範囲内でだけ債務を支払うので、相続人の 自己資産を使って借金を返済する必要はありません。
限定承認を選ぶとよいケース
- 財産の全容がはっきり分からない
(不動産や預金はあるが、借金がどれくらいあるか不明な場合) - プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか分からない
- 先祖代々の土地や自宅など、どうしても残したい財産がある
- 相続人全員で公平に精算したい
手続きの流れ
- 家庭裁判所へ申立て
- 相続開始を知った日から3か月以内(熟慮期間)
- 相続人全員で共同して申述しなければならない(相続放棄と違って一人だけでは不可)
- 相続財産目録の作成
- 裁判所に提出し、相続財産の内容を明確化する
- 債権者・受遺者への公告・催告
- 官報に公告し、債権者に請求を申し出てもらう
- 債務の弁済
- 申出のあった債権者に、相続財産の範囲で弁済
- 財産が足りなければ、債権者に平等に配当
- 残余財産の分配
- 債務の返済を終えた後、残った財産を相続人で分割
限定承認のメリット
- 自分の財産を使って借金を払わなくてよい
- 財産がプラスだった場合、その範囲で相続できる
- 借金の方が多くても、責任は相続財産の範囲で終了する
限定承認のデメリット
- 相続人全員で一緒に行わなければならない → 1人でも反対するとできない
- 手続きが複雑で、裁判所への申立てや公告など時間と費用がかかる
- 不動産がある場合は譲渡所得税が課されることがある(みなし譲渡課税)
- 実務的には相続放棄の方が選ばれることが多い
まとめ
- 限定承認は 「財産がプラスかマイナスかわからない」 場合の保険のような制度。
- プラスの財産を超えて借金を背負うことはなくなる。
- ただし手続きが煩雑なので、実際には専門家(弁護士・司法書士)に依頼することが多い。

