デジタル遺品の種類と取り扱い
近年「デジタル遺品」という言葉を耳にする機会が増えています。パソコンやスマートフォンが生活に欠かせない存在となった今、私たちは日々大量のデータや情報をオンライン上に残しています。これらは持ち主が亡くなった後に残される「デジタルの遺品」となり、家族がどのように扱うかで大きな問題にもなり得ます。実際に遺品整理の現場では「パスワードが分からずに重要な情報が取り出せない」「SNSアカウントを放置してしまい、知らない人から連絡が来る」といったトラブルが多く発生しています。ここではデジタル遺品の具体的な種類と、その適切な扱い方について詳しく説明します。
1. デジタル遺品の主な種類
デジタル遺品は大きく分けると以下のようなものがあります。
(1)端末に保存されたデータ
- パソコン、スマートフォン、タブレットに保存されている写真・動画・文書ファイル
- メールソフトの履歴や連絡先データ
- クラウドに同期されていないアプリやローカルデータ
これらは個人の思い出や業務上の情報が多く、家族にとって非常に大切なものが含まれています。
(2)オンラインアカウント
- SNS(Facebook、Instagram、X〈旧Twitter〉、LINEなど)
- メールアドレス(Gmail、Yahoo!メールなど)
- クラウドストレージ(Google Drive、Dropbox、iCloudなど)
- ネットショッピングサイト(Amazon、楽天市場など)
これらは放置すると、不正アクセスやアカウントの乗っ取りなどのリスクが生じます。また、SNSに故人の情報がそのまま残り続けることで、心情的な負担を感じる遺族も少なくありません。
(3)金融関連の情報
- ネット銀行やネット証券の口座
- 暗号資産(仮想通貨)のウォレットや取引所アカウント
- キャッシュレス決済(PayPay、楽天ペイなど)
特に金融系のデジタル遺品は、相続手続きに直結します。ログイン情報が不明なままでは、資産を引き継ぐことが難しくなります。
(4)趣味やサブスクリプション
- 音楽や映画の配信サービス(Spotify、Netflix、Apple Musicなど)
- 電子書籍やゲームアカウント(Kindle、Nintendo Switch Online、PlayStation Networkなど)
- 月額課金サービス(学習アプリ、オンラインサロンなど)
これらは金銭的な負担が継続するため、解約手続きが必要です。
2. デジタル遺品を適切に扱うためのポイント
デジタル遺品の整理は、一般的な遺品整理と比べて難易度が高い部分があります。それは「目に見えない」こと、そして「アクセス権がなければ開けない」ことです。では、どのように整理し、遺族に迷惑をかけないようにすれば良いのでしょうか。
(1)アカウント情報を整理しておく
生前のうちに、使用している主要なアカウントの一覧を作っておきましょう。
- ID(メールアドレス)
- パスワード
- 登録している電話番号や予備メール
- 利用目的(銀行、SNS、買い物など)
ただし、セキュリティの観点から紙に書いたものを放置するのは危険です。専用の「パスワード管理アプリ」や「エンディングノート」を利用し、安全な場所に保管することが望ましいです。
(2)クラウドサービスの利用を明確にする
クラウド上のデータは、ログインさえできればどの端末からでもアクセスできます。そのため、クラウドを積極的に利用し、家族にログイン方法を共有しておくと安心です。GoogleやAppleには「アカウント継承機能(アカウント引き継ぎの指定)」も用意されていますので、事前に設定しておくとトラブルを防げます。
(3)SNSアカウントの扱いを決めておく
SNSは個人の人間関係や思い出が色濃く残る場所です。亡くなった後もアカウントを残して「追悼ページ」とするか、削除するかをあらかじめ決めておきましょう。Facebookなど一部サービスでは「追悼アカウント」への切り替えが可能です。
(4)金融資産の引き継ぎ
ネット銀行や証券口座、暗号資産は相続の対象になりますが、情報が分からなければ手続きが困難になります。遺言書やエンディングノートに記載し、家族に確実に伝わるようにしておくことが必要です。特に暗号資産は秘密鍵を失うと二度と取り出せないため注意が必要です。
(5)定期的な見直し
デジタル環境は常に変化しており、数年前の情報が今では使えないこともあります。生前整理としてデジタル遺品の情報を残す場合は、少なくとも年に1回は内容を見直し、最新の状態に更新することが重要です。
3. デジタル遺品を巡るトラブル事例
実際に起こりやすいトラブルには次のようなものがあります。
- 故人のスマホがロック解除できず、大切な写真が取り出せない
- ネット銀行の情報が不明で、資産が凍結されたままになった
- サブスクリプションが解約できず、料金が引き落とされ続けた
- SNSアカウントが放置され、スパムに利用された
これらは「事前の準備」と「家族への情報共有」でほとんど防ぐことができます。
まとめ
デジタル遺品は、現代社会において誰もが直面する新しい遺品整理の課題です。写真や思い出だけでなく、金融資産や契約、オンライン上の人間関係まで、私たちの生活はデジタルと密接に結びついています。
生前のうちにアカウント情報を整理し、クラウドや継承機能を活用しながら、家族と共有しておくことが何よりも大切です。そうすることで、残された人々の負担を減らし、自分の意思に沿った形でデジタル遺品を扱うことができます。


